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(オーストラリア)望月ジェントル昇(サッカー)

2015.5.8

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初対面でソーリー前山をして、「只者じゃない感じがする」と言わしめた男、望月昇。高校まではサッカーに全てを捧げるものの、卒業時にプロからのオファーはなく、一浪して早稲田大学に入学。大学時代にマスターした英語、ポルトガル語、スペイン語を武器に、卒業後はサッカー関連の会社に就職、世界約40ヶ国を飛び回りながら更に数か国語をマスターする。31歳の時点で株や不動産を初めとした不労所得だけで生活できる状況を作り出すものの、本当に自分が人生でやりたい事はなにか、と自問する日々が続く。そして2015年3月25日、その「なにか」が海外でサッカー選手としてプレーするという事に気づき、翌日にはオーストラリア行の片道航空券を購入する。

会社の中では、望月自身が絶対的な、組織に欠かす事ができない存在であった為、中々辞表届を提出する事ができず、出発日の午後まで会社で働き、家に帰宅する素振りをして会社からそのまま成田国際空港へ向かい、シドニー行の飛行機へ搭乗するという大胆な行動に出た望月。シドニー空港に到着した時の望月は、ロングフライトで疲れているにも関わらず、これから始まるチャレンジに対する興奮を隠しきれないとでも言っている様な、不敵かつ大胆な微笑みを放っていた。

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望月がシドニーに到着して数週間滞在する事になった韓国人経営の民泊、別名「キムチ民泊」。その民泊の経営者のおばちゃんから付けられ、今では彼の本名よりも周りから覚えられ、呼ばれている「ジェントル」という呼称。彼より一回り年下の25歳の若者は「ジェントルさん」と彼を呼び、彼より二回り年下の15歳の高校生は「ジェントルマンさん」と彼に敬意を表する。

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1年前にアルゼンチンで1年間留学していた事もあるだけに、シドニーでの生活が天国だと言い切るジェントル。アルゼンチン留学時代には肉屋の親父とストリートファイトを繰り広げたほどのバイタリティーを持つ望月にとって、日本の池袋という生活空間は窮屈すぎたのだろう。

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シドニー到着後、初めにテストを受けたクラブ「Central Sydney Wolves」から契約オファーを貰い、シーズン途中からの加入にもかからず、すぐさまスタメンの座を確保。チームでの絶対的な存在としてピッチ内だけでなく、ピッチ外でも存在感を発揮する。元々このブログの姉妹ブログである「オーストラリアでプロサッカー選手を目指す男達」http://www.sydney.weblogs.jp/の愛読者であり、34歳のチャレンジャーである篠塚雄一郎氏の記事を読んでオーストラリア行を決心したというジェントル。同じ静岡県出身である日本代表キャプテン、長谷部誠と同年代だけあり、多少なりとも彼を意識している素振りを見せるジェントルだが、技術的な部分はともかく、精神的な強さに関しては、既に日本代表レベルに十分達しているといっては過言ではない位、彼がピッチの上で見せる気合、気迫は相手にとっては恐怖そのものである。

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インテリジェンス且つ、激しさ、動物的本能をピッチで120パーセント表現できる男、望月ジェントル昇。時に上品ではない言葉がはかれることもあるが、ピッチの上で彼の発する言葉一つ一つが、チームメイトの士気を高め、相手チームを威嚇し、恐怖に陥れる重要な役割をしている。

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32歳にして、人生最高レベルの体のキレを感じているというジェントル。海外でプレーしている日本人が増えたとはいえ、ここまで試合中に闘志を剥き出しにし、チーターがトムソンガゼルを狩るがごとく、相手に飛びかかっていく姿は、もはや芸術を観ている感覚にさえ陥る。

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ジェントルが所属するクラブ、「Central Sydney Wolves」の監督を務めるビル氏。スキンヘッドにサングラス、そしてゴリラの様なムキムキの肉体を持つ彼とジェントルが横に並ぶと、泣く子も黙る。

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左足での正確無比なクロス。

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グラウンドに倒れているチームメイトなど眼中になく、颯爽とグラウンドを駆けるジェントル。

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遅延行為目的でボールをホールディングしている相手には容赦なく恫喝し、

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それでも応じなければ臨戦態勢へ入る。

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10点差で勝っていようが、最後まで100パーセントでプレーし、

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勝利の後にはみんなの前で腰振りダンス。

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そんな男らしいジェントルと出会えて本当に良かった。

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この試合限りで引退宣言をしたジェントル。この爽やかな笑みの裏には、寂しさも感じられたが。

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そんな引退宣言から2日後、ジェントルはグラウンドに戻り、汗を流していた。

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オーストラリアに来てから4ヵ月間、週4日の練習を欠かさずこのグラウンドで行ってきたジェントル。仕事を辞め、家族と離れ、そして自身が一番愛するサッカーだけに打ち込む事ができたこの期間。サッカーを通じて新しい友人ができ、人生観が変わり、これからの目標が明確となったこの期間は人生で最高の期間だと言い切るジェントルの言葉に、偽りはない。

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カメラ目線もナチュラルだ。

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短期留学中の中学生の通訳を買って出るジェントル。まさに「ジェントルマンさん」の姿だ。

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望月ジェントル昇。こんな男がまだ日本に存在したとは、日本の未来も捨てたもんじゃないな。

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