【オーストラリアに来て、自分がこんなにもサッカーが下手なんだという事に、気づかされました】
と、自嘲気味に僕に語ってくれた、この男。
自分と同じ時期にオーストラリアへ渡航してきたチャレンジャー達は、どんどん契約が決まっていく。
来た当初は、最低でもNPL3(豪州4部)ぐらいでは契約できるだろうという、根拠のない自信があった。
しかし、NPL3はおろか、State League(豪州5部)のチームでさえ、全く興味を持ってもらえない。
最後の望みをかけて、サッカーで給料が貰えるという意味では、一番ハードルが低いと思われるリーグである、Illawarra District Leagueにチャレンジ。
実戦でのパフォーマンスが見たいと、いきなり対外試合に呼ばれる。
後半頭から出場するものの、後半途中で交代。そしてこのチームからのオファーもなかった。
【もう少し、プレーする時間が欲しかった】
と、試合後にボソッと出てきたこの言葉。
もう少し時間が与えられたら、もっといいパフォーマンスが見せられたとでも言いたかったのだろうか?
この試合に呼ばれた他の3人の日本人チャレンジャーの内、2人が試合後にオファーを貰った事を考えると、決してプレーを見てもらえなかった訳ではない。
彼が出場した約20分間のパフォーマンスで、チームに必要ないと判断されたのだ。
リーグ昇格を目標としているチームにとって、契約の可能性がないと判断した選手にプレー時間を与える程、余裕はない。
ようやく自分の現状に気づかされた彼だが、自分が下手だという事に気づいたからといって、その事実を易々を受け入れられる程、メンタルは強くなかった。
受け入れがたい現実を突きつけられた辛さからなのか、毎朝、死んだような顔つきをして起きてくる彼を見て、夕食に連れ出すことにした。
【死ぬまでずっと、サッカーに関わっていきたい。選手としてのキャリアの後は、指導者になりたい】
【勉強はあまり好きでなく、得意でもない。英語も上手くなりたいとは思っているが、どうやって勉強していいのか分からない】
【サッカーで自分の武器と思っていたものが、オーストラリアでは全く通用しない。トライアルでどうやってアピールしていいのか、正直かなり悩んでいる】
【オーストラリアで数年プレーした後に、ヨーロッパでもチャレンジしてみたい】
普段は口にする事もできないような料理をすすりながら、自分の胸の内を語ってくれたこの男。
話を聞くうちに、彼の中での人生での楽しみ、生きがいが、サッカーしかないという事に、僕は気づいた。
【お前の人生は、バランスが悪すぎる!サッカー以外に楽しめる事、熱中できる事を見つけろ!】
人生をかけて、熱中できる事があるのは素晴らしい。しかし、その熱中する事が上手くいかなかったときに、自分の人生が辛く、無意味なものと思ってしまうのは、もったいない。
【周りを見渡せば、人生は面白い事だらけ】
僕の言葉が、どれだけ彼に伝わったのかはわからない。
だが少なくても、美味しい食事を食べる事も人生の楽しみに十分なるという事を、感じてくれた事には間違いないだろう。
豪州フットボーラーズ